リテラシー研修の目的は「安全に、偏りなく使える」状態

全社員向けのAIリテラシー研修には2つの目的があります。1つは、情報漏えいや誤った出力の鵜呑みといった事故を防ぐこと。もう1つは、一部の人しか使っていない状態を解消することです。

利用の偏りは、データにも表れています。エクサウィザーズが2026年10月6日に公表した利用実態調査では、上位10%のユーザーがメッセージ量の約半分を占めていました(同社発表)。令和8年版情報通信白書によると、日本で生成AIを使わない理由のうち「使い方がわからない」は38.8%で、日米独中の4か国で最も高い割合でした。

上位10%のユーザーが占めるメッセージ量
約50%
エクサウィザーズ利用実態調査(2026年10月6日公表、同社発表)
生成AIを使わない理由「使い方がわからない」(日本)
38.8%
令和8年版情報通信白書(総務省、2026年)
AIと働くための研修を受けたAI利用者(日本)
26.7%
令和8年版労働経済白書(厚生労働省、2026年9月)

使い方がわからないまま禁止事項だけを伝えると、利用はさらに減ります。逆に使い方だけを教えると、事故が起きます。研修では両方をセットで扱います。

製造業の全社員に教える8つのテーマ

#テーマ製造業での具体例
1AIでできること・できないこと予測AIと生成AIの違い、AIに任せてはいけない判断(最終の出荷判定など)
2入力してよい情報・いけない情報図面、加工条件、顧客名、未公開の不具合情報、個人情報の扱い
3出力の検証数値・規格値・法令の引用は必ず原典で確認する。もっともらしい誤り(ハルシネーション)の例
4社内で使ってよいツール会社が契約したツールと、個人アカウントの無料ツールの違い
5業務での使いどころ報告書の下書き、翻訳、議事録、手順書の整理、過去トラブルの検索
6著作権と他社の権利他社のカタログや規格書を入力・転載するときの注意
7工場で動くAIとの付き合い方外観検査AIや異常検知の判定を疑うポイント、誤りの報告方法
8困ったときの相談先推進担当、情報システム部門、ルールの改訂を提案する窓口

テーマ2と4は、自社の生成AI利用ルールと内容を一致させてください。ルールの作り方は生成AIの社内利用ルールの作り方で扱います。テーマ7は、工場でAIを動かしている製造業ならではの項目です。検査や保全のAIが出した結果を、現場がどう確認し、誤りをどう記録するかを教えます。

部門と職種で深さを変える

全社員に同じ内容を同じ時間で教える必要はありません。共通部分を短くし、職種ごとの演習で厚みを持たせます。

リテラシー研修の2段構成 共通の基礎(全社員・60〜90分) テーマ1・2・3・4・6・8:できること、入力禁止情報、出力の検証、使ってよいツール、権利、相談先 製造・検査検査AIの判定の確認と誤りの報告 保全故障記録の検索異常検知アラーム 品質・生技・設計報告書の下書き図面・技術情報の扱い 管理職部下の利用の促し方AIの判断の責任
共通の基礎(全員)と職種別の演習(部門ごと)の2段構成。共通部分は短く、演習で定着させる。

製造ラインの作業者には、パソコンで受講する時間が取りにくい事情があります。朝礼後の15分を数回使う、休憩室に短い動画を置くなど、勤務形態に合わせます。外国人従業員が多い職場では、母国語の資料を用意します(外国人従業員とAIを参照)。

研修のあとに利用を広げる仕組み

研修だけでは、利用の偏りは解消しません。研修のあとに次の仕組みを組み合わせます。

  1. 職場ごとに使い方の事例を集めて共有する(報告書の下書きで何分短くなったか、など)
  2. 部署ごとに相談役を1人決める。詳しくは現場に生成AIを広げる推進体制を参照
  3. 利用状況を部署別に見て、使われていない部署には個別に支援する
  4. ルールと研修内容を半年に1回見直す

海外ではリテラシーが義務になっている

EUのAI Actは、第4条でAIのプロバイダーとデプロイヤー(AIを業務で使う事業者)に、AIを操作・利用するスタッフのAIリテラシーを確保する措置を求めています。この義務は2025年2月2日から適用されています。EU域内に拠点を持ち、AIを使う日本の製造業も対象になりえます。EU向けの対応はEU AI Actと日本の製造業で扱います。

日本ではリテラシー研修は法的義務ではありませんが、労働経済白書(2026年)は、労使がAIと働くための人的資本に投資した場合に仕事の質が改善すると分析しています。研修は、事故防止のためだけでなく、AIへの投資を成果につなげるための前提と考えるのが妥当です。

よくある質問

研修の時間はどのくらい必要ですか

共通の基礎は60〜90分で足ります。職種別の演習を30〜60分加え、半年後に変更点の確認を15分程度行う構成が目安です。

研修を受けないとツールを使えないようにすべきですか

入力禁止情報の確認テストに合格した人からアカウントを発行する方法は有効です。ただしテストを難しくしすぎると利用が広がりません。

工場の作業者にも生成AIの研修は必要ですか

作業者が生成AIを直接使わなくても、検査AIや異常検知の判定を確認する立場になります。テーマ1・3・7は全員に必要です。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。