既存規格はヒューマノイドを想定していない
産業用ロボットの安全規格ISO 10218は2025年2月に改訂され、協働ロボットの技術仕様ISO/TS 15066は後継のISO 15066-1への改訂作業中です(ISO、2025年)。これらの規格は、基本的に床や架台に固定されたロボットアームを前提に作られてきました。改訂の概要はISO 10218:2025改訂の要点で整理しています。
ヒューマノイドの開発企業自身も、規格と製品の間に隙間があることを認めています。Agility Roboticsは公式サイトで、人と協調して働く安全性を持つ「Digit 5」は開発中で、「一部の安全機能は開発中」「安全機能はすべての運用リスクを排除しない」と明記しています(同社サイト、2026年)。同社は実生産での稼働6.5万時間を掲げていますが、その稼働は人と分離した環境を前提にしていると読むのが自然です。
前提から外れる3つの点
1. 移動する:危険範囲が固定されない
固定式ロボットは、アームが届く範囲が決まっており、その周囲を柵やセンサで区切れます。ヒューマノイドは歩いて移動するため、危険範囲がロボットとともに動きます。工場内の通路を人と共有する場合、無人搬送車(AGV)や自律移動ロボット(AMR)の安全の考え方も加わり、腕の動作と移動の両方を同時に扱う必要があります。
2. 止めると倒れうる:転倒のリスク
固定式ロボットでは、異常時に電源を遮断して停止させるのが最も安全な状態です。二足歩行のヒューマノイドは、電源を切るとバランスを保てず倒れる可能性があります。数十kgの機体が倒れれば、近くの人や設備に危害が及びます。「止めれば安全」という前提が成り立たない点が、既存の安全設計の考え方と根本的に違います。
3. 常に姿勢を制御している:動的安定
立っているだけでも、ヒューマノイドはモーターで姿勢を常に制御しています。この制御が安全機能そのものに近い役割を持つため、制御ソフトウェアの故障や、AIによる動作生成の誤りが、転倒という形で安全に直結します。AIが動作を決める部分と、安全を担う部分を切り分けにくい構造です。
安全基盤の整備は始まっている
ギャップを埋める動きもあります。NVIDIAは2026年9月21日、フィジカルAI向けの安全システム「NVIDIA Halos」のロボティクス展開を解説しました。機能安全向けの演算部を持つIGX Thor(IEC 61508とISO 13849への適合を目標)、外部カメラで施設全体を監視する「アウトサイドイン安全」の設計などで構成され、パートナーにはKION GroupやAgilityが挙がっています(同社発表)。同社の検査機関はANABからISO/IEC 17020の検査機関として認定を受け、AI固有のリスクを扱う新しい規格ISO/IEC TS 22440にも言及しています。
ただし、これらは安全を実現するための部品と考え方で、ヒューマノイドの協働運転を認める規格が完成したわけではありません。
工場導入の現実的な安全設計
公開されている工場実証の多くは、特定の工程・区画での作業で、人と自由に混在して働く形ではありません。BMWスパータンバーグ工場でのFigure 02の稼働も、板金部品を溶接治具に投入する決まった工程での作業でした。工場実証の現状はヒューマノイドの工場実証一覧で整理しています。
国内での安全と責任の扱いはフィジカルAI・ロボットと労働安全衛生法で扱っています。
よくある質問
ヒューマノイド専用の安全規格はいつできますか
2026年10月時点で、ヒューマノイドの協働運転を包括的に定める国際規格は発行されていません。既存規格の改訂や新規格の検討は進んでいますが、発行時期は確定していません。
車輪型のヒューマノイドなら問題は小さいですか
二足歩行に比べて転倒のリスクは下がりますが、移動する点と、上半身の動作をAIが決める点は同じです。移動ロボットとしての安全と、アームとしての安全の両方を確認する必要があります。
人と分離するならヒューマノイドを使う意味はありますか
人用に作られた既存の設備や作業場所をそのまま使える点に、ヒューマノイドの利点があります。人と分離した区画でも、設備を改造せずに自動化できるかを検証する意味はあります。専用ロボットとの比較は別途検討が要ります。
この記事に出てくる用語
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