Digitは「物流のトート搬送」に用途を絞って商用化した

Agility Roboticsは米国オレゴン州のヒューマノイド企業で、二足歩行のDigitを開発しています。現行のDigitは2023年のProMat(物流展示会)で発表され、同社はオレゴン州セーラムにヒューマノイドの工場「RoboFab」を設置しています。

Digitの商用展開の中心は、物流倉庫でのトート(樹脂製の通い箱)の搬送です。2024年、物流大手GXO Logisticsと複数年契約を結び、Agilityはこれをヒューマノイド初の正式な商用展開、かつ初のRaaS型展開と位置づけています。2024年11月13日には、独Schaefflerから少数株出資を受け、SchaefflerがDigitを購入して2030年までにグローバルの100工場へ大規模に展開することを目指すと発表しました。

同社の公式サイトは、Digitを「65,000時間の実生産経験を持つヒューマノイド」と説明し、フリート管理クラウド「Arc」を提供しています。顧客としてGXO、Schaeffler、Toyota Motor Manufacturing Canadaのロゴを掲示しています。

Digitの実生産での稼働時間
6.5万時間
Agility Robotics公式サイト(2026年時点、同社表記)
Schaefflerが2030年までの展開を目指す工場ネットワーク
100工場
Agility Robotics発表(2024年11月)
ヒューマノイドの正式な商用展開・RaaS型展開
初
Agility Robotics発表(GXO契約、2024年)

RaaSは何を変えるか

RaaS(Robots as a Service)は、ロボットを購入せず、月額などの利用料で使う契約形態です。GXOとの契約がこの形で結ばれたことには、導入側にとって次の意味があります。

観点購入RaaS
初期投資機体代を一括で計上小さい。利用料を経費として払う
技術の陳腐化リスク導入側が負う提供側が負う(機体の更新を含む契約なら)
保守別契約または自社利用料に含まれることが多い
撤退資産の処分が必要契約終了で返却
長期の総コスト長く使えば安くなりうる長期では割高になりうる

ヒューマノイドのように技術が急速に変わる機器では、数年で機体が陳腐化するリスクがあります。RaaSはこのリスクを提供側に移す仕組みで、新技術を試す段階の導入側には合理的な選択です。一方で、GXOとの契約の金額や条件は公開されておらず、1台あたりの費用対効果を外部から評価することはできません。

公式サイトが明記する安全面の制約

ベンダーが自社サイトで制約をここまで具体的に書くのは珍しく、導入側にとっては判断材料として有用です。ヒューマノイドは歩行と転倒の可能性があり、ISO 10218やISO/TS 15066が前提とする固定設置のロボットとは安全の考え方が違います。この点はヒューマノイドの安全規格ギャップで詳しく扱います。

Digitの商用展開が、用途の限定、作業区域の分離、RaaS契約、フリート管理Arcの4要素で成り立っていることを示す図 Digitの商用展開GXO・Schaeffler等 用途の限定トート搬送 作業区域の分離協調安全は開発中 RaaS契約陳腐化リスクを移転 フリート管理Arcクラウドで運用管理
Digitの商用展開の構図。用途を限定し、区域分離と月額契約でリスクを下げている。

シミュレーションでの事前検証とセットで進む

SchaefflerとAccentureは、NVIDIAのMega Omniverse Blueprintを使い、デジタルツイン上でDigitのフリートを模擬してレイアウトと人とロボットの協働を検討する事例を、Hannover Messe 2025で紹介しました。実機を工場に入れる前に、通路幅、動線、作業者との干渉をシミュレーションで確認する進め方です。100工場への展開を目指す以上、工場ごとに実機で試行錯誤するのは現実的ではなく、デジタルツインでの事前検証が前提になります。詳しくはOmniverseで工場デジタルツインで扱います。

その他、Agility RoboticsはChurchill Capital Corp XIとの合併による上場に合意したと報じられています(Runtime Wire、2026年7月)。

製造業がDigitの事例から学べること

5つ目は見落とされがちです。トート搬送の指示はWMS(倉庫管理システム)や工場ならMESから出ます。ロボット側のフリート管理(Arc)の稼働記録と、業務システム側の搬送指示・実績を突き合わせられないと、ロボットが業務にどれだけ寄与したかを測れません。ヒューマノイドの他の実証はヒューマノイドの工場実証一覧にまとめています。

よくある質問

Digitは日本で導入できますか

本記事の調査では、日本での提供条件を一次情報で確認できていません。導入を検討する場合は、国内の販売・保守体制と、日本の安全規制への対応を個別に確認する必要があります。

6.5万時間の稼働は多いのですか

同社の表記による累計時間で、台数や拠点数で割った1台あたりの時間、稼働率は公開されていません。産業用ロボットの累計稼働と比べると規模はまだ小さいと考えられます。

RaaSと通常のリースは何が違いますか

リースは主に機体の資金調達の手段ですが、RaaSは保守、ソフトウェア更新、フリート管理を含めたサービスとして提供されることが多い点が違います。含まれる範囲は契約ごとに確認が必要です。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。