高温炉はエネルギーと品質が直結する

板ガラス、ガラス容器、ガラス繊維、セラミックス、耐火物といった窯業製品は、いずれも原料を高温の炉で溶かすか焼成して作ります。炉の温度分布が狙いから外れると、泡・脈理(ガラス内部の筋)・焼成ムラといった品質不良が出ます。同時に、燃料と電力は製造コストの大きな割合を占めます。炉の状態を安定させることは、品質とエネルギーの両方に効くため、窯業ではプロセス制御のAIが最も費用対効果を出しやすい領域です。

領域AIでできること前提になるデータ
炉の燃焼制御温度分布の予測、燃料・空気比の推奨、熟練オペレーターの操作の再現炉内温度、燃料流量、原料投入量、排ガス、品質検査結果
欠点検査泡・異物・傷・脈理の検出と分類ラインスキャン画像、欠点の判定記録
開発・設計熱・流体シミュレーションの高速化、材料探索過去の解析結果、試作データ
技術伝承炉の運転ノウハウの検索・質問応答運転日誌、トラブル記録、マニュアル

炉の燃焼制御:予測を操作に変える

炉は熱容量が大きく、操作してから温度が変わるまで数時間以上かかることもあります。熟練オペレーターは、その遅れを見越して燃料や空気の量を早めに調整しています。AIの役割は、この「先読み」をデータで行うことです。温度分布の数時間先を予測するモデルを作り、その予測に基づいて操作量を推奨する形が基本になります。

プロセス産業でのAI制御の参考になるのが、化学プラントの事例です。横河電機とJSRは、強化学習AIで蒸留塔を35日間連続で自律制御し、製品はすべて規格を満たしたと発表しています(2022年3月)。詳細は強化学習AIによるプラント自律制御で扱っています。炉の制御にも同じ考え方は使えますが、いきなり自律制御を目指すのではなく、推奨値をオペレーターに示し、採否の記録を取る段階から始めるのが現実的です。

窯業に近いプロセスでは、ABBがセメントなどの重要プロセス向けに、生成AIを組み込んだGenix Copilotでエネルギーを15〜18%最適化し、トラブルシュート時間を60〜80%削減したとMicrosoftの顧客事例(2025年11月)で紹介されています。ABBの自社発表の数値で、対象プラントの条件は公開されていません。

板ガラスの欠点検査

板ガラスは透明で、表面の傷と内部の泡・異物を同時に見る必要があります。照明を透過・反射・暗視野などに切り替えて撮像し、欠点の種類と大きさを判定するのが一般的です。従来のしきい値型の検査装置が広く使われており、AIを入れる意味が出るのは、欠点の種類分け(泡か異物か、どの工程由来か)を自動化したい場面です。

欠点の種類が分かれば、原因工程を推定できます。泡なら溶解炉の清澄(泡を抜く工程)、異物なら原料や耐火物の剥離、傷なら搬送系という具合です。検査結果を、そのガラスが炉を通過した時刻の炉の状態と突き合わせると、炉の制御と品質を一つのデータでつなげられます。連続シートの検査データを上流の設備データと紐付ける考え方は、外観検査AIの判定結果をMESに戻すと共通です。

ガラス製造の工程とAIの適用箇所 原料調合 溶解炉燃焼制御AI 成形・徐冷 欠点検査種類分けAI 切断・出荷 通過時刻で紐付け:欠点の種類 ↔ そのときの炉の温度・燃料・原料
窯業の工程とAIの置き場所。炉の制御と欠点検査を通過時刻でつなぐと、品質の原因を炉側に戻せる。

開発と技術伝承:NGKとVivixの例

開発領域では、日本ガイシ(NGK)がLaboro.AIと生成AIを使った大規模シミュレーションソフトウェアを開発したと、Laboro.AIが公表しています。セラミックス製品の開発では、焼成時の収縮や応力を熱・構造解析で確認する工程に時間がかかるため、解析を速くする技術の効果が大きくなります。数値の成果は公開されていません。解析を学習済みモデルで代替する考え方はCAE代替モデルで解説しています。

技術伝承では、ブラジルの板ガラスメーカーVivix Vidros Planosが、SiemensのMendixとAWSのBedrockで作った「Virtual Engineer」で技術者のオンボーディングを支援し、育成期間を「数年から数か月」に短縮したとAWSが紹介しています(2024年5月)。炉の運転は経験の蓄積が大きく、ベテランの退職が品質リスクに直結する業種です。運転日誌やトラブル記録を検索できるようにする生成AIは、窯業で効果を出しやすい使い方です。

よくある質問

炉の燃焼制御にAIを入れると、どのくらい省エネになりますか

炉の種類、現状の運転の安定度、測定点の数で大きく変わり、一般化できる数字はありません。効果は生産量で補正したエネルギー原単位で測ります。補正しないと、生産量の変動を省エネ効果と取り違えます。

炉内の温度は直接測れない箇所が多いのですが

測れる点の温度や排ガスの組成から、測れない箇所の状態を推定するソフトセンサーの考え方が使えます。推定値は定期的に実測値で確認し、炉の補修後は見直します。

生成AIに炉の運転ノウハウを任せて大丈夫ですか

生成AIは過去の記録の検索と要約に使い、操作の判断は人が行います。回答には根拠となった記録を必ず示させ、誤った手順を答えたときに気づけるようにします。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。