連続プロセスでAIの実装が進む3つの理由

製造業のAIの多くがPoC(概念実証)で止まるなかで、石油精製や石油化学などの連続プロセスでは、AIによる自動運転が実際の装置で動いています。これには業種の構造的な理由があります。

  1. データが揃っている:DCS(分散制御システム)とヒストリアンに、数千点のセンサーの値が秒単位で何年分も蓄積されている
  2. 製品が少なく、条件が連続的:同じ装置で同じ種類の製品を作り続けるため、多品種少量の工場のように品種ごとに学習し直す必要がない
  3. 効果が大きい:処理量が大きいため、わずかな効率の改善が大きな金額になる

一方で、事故が起きたときの影響が極めて大きいため、安全の設計とAIの振る舞いの検証が他の業種以上に厳しく求められます。組立加工とプロセス産業のAIの違いは組立加工とプロセス産業で異なるAIの使い方で整理しています。

自動運転:ENEOS×PFNと横河電機×JSR

国内で最も進んだ例が、ENEOSとPreferred Networks(PFN)の取り組みです。両社は石油プラントのAI自動運転で、3,637個の入力センサーで予測し、9個のバルブを同時に操作して、手動操作を上回る効率で運転できたと報告しました(2023年8月)。2024年5月には、ENEOS川崎製油所の原油処理装置で、930個の入力センサー・13バルブ同時操作によるAIの常時自動運転を始め、両社は「世界初」としています。設計思想はENEOS×PFNの製油所AI自動運転で詳しく扱っています。

化学プラントでは、横河電機とJSRが、強化学習AIで蒸留塔を35日間(840時間)連続で自律制御し、製品はすべて規格を満たしたと発表しています(2022年3月)。

ENEOS川崎製油所 原油処理装置のAI常時自動運転
930センサ・13バルブ
ENEOS・PFN(2024年5月、Impress Watch報道)
強化学習AIによる蒸留塔の連続自律制御
35日間
横河電機・JSR(2022年3月)
信頼性(Qatar Shell GTL)
99%
WEF(2025年9月)、スループット9%増、設備寿命最大50%延長も報告

これらの例に共通するのは、AIがいきなり自律制御を始めたのではなく、オペレーターの操作を支援する段階を経て、適用範囲を広げてきたことです。また、AIの操作量には安全上の上下限を設け、異常時には従来の制御とオペレーターに戻す仕組みを持っています。

予知保全とエネルギー最適化

連続プロセスでは、ポンプ・圧縮機・熱交換器などの回転機と静機器が止まると、装置全体が止まります。予知保全の効果が大きい業種で、回転機の振動監視はAI以前から行われてきました。

WEFのライトハウスに選ばれたQatar Shell GTLの拠点は、信頼性99%、スループット9%増、設備寿命の最大50%延長を報告しています(2025年9月)。トルコの製油所Tüpraşのイズミット拠点は、予測業務の生産性が48%上がり、納期遵守率が85%から95%に改善しました(同)。いずれも複数の取り組みを合わせた拠点全体の成果です。

欧米のプロセス産業向けベンダーは、生成AIを組み込んだ保全・運転支援の製品を出しています。ABBは、資産性能管理向けのGenix APM Copilotで、既存の利用者においてO&Mコスト最大40%削減、生産効率最大30%向上を見込むとしています(ABBの自己申告、2025年5月)。こうした「最大◯%」の読み方はHoneywell・ABB・GE Vernovaのプロセス産業AIで比較しています。

中国:時系列大模型とエージェント

中国では、プロセス産業向けの時系列データに特化した大規模モデルが注目されています。中控技術(SUPCON)は2025年8月、流程工業向けの時系列事前学習大模型「TPT 2」を発表し、発表時点で予約518社、販売112套としました。証券会社のレポートによると、2026年1〜3月の同社の工業AI収益は1.84億元で、2025年1〜9月の合計を上回り、中国石油・中国石化などに導入されています。

陝西省の延長石油は、海尔系の卡奥斯(COSMOPlat)と6類型38のエージェントを導入し、故障検知の適時性が90%向上、ガソリン調合の一発成功率が60%上がったと海尔が発表しています(2025年11月)。いずれも企業や証券会社の発表で、第三者の検証値ではありません。中国の動きの詳細は中控技術TPT 2で扱っています。

プロセスプラントのAI適用の段階 1 見える化ヒストリアン・KPI 2 予測ソフトセンサー・異常検知 3 運転支援推奨値・人が採否 4 自律運転上下限・切替の枠内
連続プロセスのAIの段階。支援から始め、安全の枠の中で自律の範囲を広げる。

残る限界:データ・人・セキュリティ

到達点が見えてきた一方で、課題も残っています。

  • 異常時のデータが少ない:プラントは安定運転が前提のため、トラブル時のデータが少なく、AIは経験していない状況に弱い
  • 運転員の技能:AIが運転するほど、運転員が手動で運転する機会が減り、異常時に対応できる人が育ちにくくなる
  • セキュリティ:AIが制御システムに操作量を書き込む構成では、ネットワークの設計と変更管理がより重要になる。制御系とクラウドをつなぐ設計はIEC 62443とAI・データ基盤を参照してください

よくある質問

中小規模の化学工場でも自動運転はできますか

自動運転の開発には大きな費用がかかり、効果が見合うのは処理量の大きい装置です。中小規模の工場では、ソフトセンサーや異常検知による運転支援から始めるのが現実的です。

時系列の大規模モデルは日本でも使えますか

中国の製品は主に中国国内で展開されています。時系列の基盤モデル自体は海外の研究機関や企業も公開しており、自社のデータで検証できます。ただし既存の手法より良いかは、自社のデータで比較して確かめる必要があります。

AIが誤った操作をした場合の責任はどうなりますか

AIの操作は、安全上の上下限と、異常時に従来の制御へ戻す仕組みの中で行わせ、最終的な責任は運転の管理者が持つ体制にします。ベンダーとの契約で、モデルの性能と保守の責任範囲を明確にしておきます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。