3製品は「どこから保全に入るか」が違う

保全向けの生成AIは、出自によって守備範囲が異なります。

  • Siemens Senseye:予知保全SaaSに生成AIの保全支援を加えたもの。センサ監視と異常検知が起点
  • SAP:ERPの保全モジュール(保全計画・作業指示)の上で動くエージェント。保全計画とディスパッチが起点
  • AWS:IoT SiteWise(設備データの収集・モデル化)とBedrock(生成AI基盤)を組み合わせて、ユーザー側が構成する型。製品というより部品の組み合わせ
項目Siemens Senseye Maintenance CopilotSAP Joule(Maintenance Planner Agent ほか)AWS(IoT SiteWise+Bedrock)
提供形態予知保全SaaSのパッケージ(Entry/Scale)ERP・SAP Business AIの機能クラウドサービスを組み合わせて構築
主な対象業務異常の検知、対処の支援、保全員への助言保全計画の作成、現場監督、サービスのディスパッチマニュアル・SOP・リアルタイムIoTデータからの保全員支援
公表されている効果パイロットで事後保全時間を平均25%削減(同社発表、2025年3月)保全計画者の生産性最大40%向上・計画外停止最大1%減(2025年Q2のベータ時点の見込み値)Hannover Messe 2024でのデモ。効果数値の公表なし
前提になるデータセンサデータ、保全履歴SAP PMの設備マスタ・作業指示・保全履歴SiteWiseでモデル化した設備データ、マニュアル類

Senseyeは、旧senseye.ioのドメインがSiemensの製品ページへ転送されており、Siemensの予知保全製品として完全に統合されています。2025年3月24日の発表で、Senseye向けの生成AI「Maintenance Copilot」を、機能を絞ったEntry Packageと全機能のScale Packageの2つで提供すると発表しました。

SAPは2025年5月のSapphireで、Maintenance Planner Agent、Shop Floor Supervisor Agent、Field Service Dispatcher Agentを2025年第4四半期に投入する計画を示しました。2025年Q3のリリースで公開されたShop Floor Supervisor Agent(ベータ)について、SAPは監督者の生産性50%向上、計画外停止2%削減を推定しています。

どの製品でも効果を左右するのは保全履歴の質

3つに共通する前提は、保全履歴(CMMSや保全モジュールの作業記録)の質です。生成AIが対処を助言したり、保全計画を提案したりするとき、根拠にするのは過去の故障と対処の記録だからです。

保全向け生成AIのデータ前提の階層 設備マスタ(設備ID・階層・部品構成)の整合 保全履歴(現象・原因・対処・部品・結果) センサ・稼働データ(アラーム・停止理由) 生成AI(助言・計画・要約)
保全向け生成AIの効果は、下の層のデータの整い具合で上限が決まる。

導入前に、次の3点を自社のデータで確かめます。

  1. 設備マスタの階層が、実際の設備構成と合っているか。ERPとMES・SCADAで設備IDの体系が違う工場は多く、どちらに合わせるかで生成AIの参照範囲が変わります
  2. 保全履歴に、現象・原因・対処・交換部品・結果が残っているか。「点検済み」「異常なし」だけの記録は助言の材料になりません
  3. 停止理由が、MESや稼働監視で一定の粒度のコードで記録されているか

データの準備が足りない状態でどの製品を入れても、生成AIは一般的な保全知識しか返せません。保全記録の改善は保全記録を予知保全AIの教師データにする、停止理由コードの設計は不良コード・停止理由コードの設計を参照してください。

選び方:既存の基盤で決まる部分が大きい

3製品の選択は、機能比較より既存の基盤との相性で決まることが多くなります。

  • 保全計画と作業指示をSAP PMで回している会社は、SAPのエージェントが既存の作業指示データにそのまま乗るため、最初の候補になります
  • 設備の状態監視から始めたい会社、ERPに保全モジュールを持たない会社は、Senseyeのような予知保全SaaSが入口になります
  • 社内にクラウドの開発体制があり、マニュアル検索や設備データとの組み合わせを自社仕様で作りたい会社は、AWSのような構築型が向きます。AWS IoT SiteWiseの構成はAWS IoT SiteWiseとはで解説しています

よくある質問

予知保全AIを入れていなくても保全向け生成AIは使えますか

使えます。マニュアルや保全履歴の検索、保全計画の下書きは、センサデータがなくても始められます。ただし、異常の兆候に基づく助言にはセンサデータが必要です。

Senseyeは日本で使えますか

本記事の参照資料からは日本での提供条件を確認できていません。Siemensの国内窓口に、提供形態と日本語対応を確認してください。

SAPのエージェントの効果数値は信頼できますか

2025年時点の数字はベータ段階の見込み値として公表されています。自社の保全計画業務で、作成時間と計画の遵守率を導入前後で測ることを前提に評価してください。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この特集について

製造業の生成AI、どこまで任せられるか

文書検索、手順書の生成、品質報告のドラフト。人が承認する範囲と任せてよい範囲の線引き 全91本

  1. 製造業の生成AI活用の全体像:業務別12ユースケースと導入の順番
  2. 製造業の社内文書RAG入門:手順書・図面・品質記録を検索する5層構成
  3. Siemens Industrial Copilotの全体像:5系統の提供状況と狙い
  4. 生成AIの情報漏えい対策:製造業が決めるべき入力禁止情報とログ管理の7項目
特集の記事をすべて見る →

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。