3つのモデルは「計画・動作・実機推論」で役割が分かれる

Google DeepMindは、Gemini Roboticsとして次の3つのモデルを公開しています(同社モデルページ、2026年時点)。

モデル役割提供形態(公表情報)
Gemini Robotics ER 2身体性推論(Embodied Reasoning)。空間を理解し、多段の作業計画を立てるGoogle AI Studioでプレビュー
Gemini Robotics 2VLA。画像と指示から動作を出す研究パートナー・トラステッドテスター向け
Gemini Robotics On-Device 2ロボット実機上で動く軽量VLA同上

同社は、任意の双腕ロボットに数時間で適応できるとしており、研究パートナーにAgile Robots、Apptronik、Boston Dynamics、トラステッドテスターに100超の組織を挙げています。

ERは前の版から段階的に提供されてきました。2025年9月にはGemini Robotics-ER 1.5がGemini API経由でプレビュー提供され、空間推論と多段計画を行い、VLAモデルやユーザー定義の関数をツールとして呼び出す設計が示されました。思考の予算(推論にかける計算量)を変えて、応答時間と精度を調整できます。

ERが指示と画像から計画を立て、Gemini Robotics VLA、On-Device、既存ロボットコントローラーなどのツールを呼び出す構成図 指示・画像「部品を仕分けて」 Gemini Robotics ER空間理解・多段計画ツールを呼び出す Gemini Robotics(VLA)動作を生成 On-Device実機上の軽量VLA 既存ロボットの制御・関数MOTOMAN NEXT・ファナック等
Gemini Roboticsの役割分担。ERが計画してツールを呼び、VLAまたは既存ロボットの制御が動作を担う。

工場ではERが「何をするか」を決める層として使われ始めた

日本の産業ロボットメーカー2社の発表を見ると、工場で最初に使われているのはVLAよりERの側です。

安川電機は2026年7月15日、AIロボット「MOTOMAN NEXT」とGemini Robotics ER 1.6を連携させた「エージェンティック・ロボットシステム」の開発を発表しました。生成AIが「何をすべきか」を、MOTOMAN NEXTが「どう動くか」を担い、「この部品を仕分けて」程度の指示で事前ティーチングなしに動作するとしています。搬送中の落下などのエラーを認識してやり直し、部品が足りないときは生産管理システムへ発注情報を連携できる構成も示されました。提供時期は未発表です。

ファナックは2026年5月13日、Gemini Enterpriseを使ったAIエージェントが協働・非協働ロボットを1つのセルとして操るシステムを発表し、Gemini RoboticsのTrusted Testerプログラムへの参加も明らかにしました。全ファナックロボットがGoogle傘下IntrinsicのプラットフォームFlowstate(ROS互換)に対応する予定としています。

2社に共通するのは、ロボットの動作そのものは自社の制御で行い、AIには計画と判断を任せる分担です。動作をVLAで生成するより、既存の軌道生成・安全機能を残したまま上位にAIを置く方が、品質と安全の保証がしやすいためです。詳しくは安川電機のフィジカルAIとファナックのフィジカルAI戦略で扱います。

ER・VLA・On-Deviceの使い分け

工場の視点で使い分けを整理すると次のようになります。

  • ER:作業の分解、物体の位置の特定、エラー時の判断。既存のロボット制御を関数として呼び出す。クラウドAPIで提供されるため、応答時間とネットワーク依存を確認する
  • VLA(Gemini Robotics 2):教示で書き切れない動作(柔軟物、未知の物体)の生成。研究パートナー向けの提供で、量産設備への組込みは各社の製品化を待つ段階
  • On-Device:ネットワークに依存せず実機上で推論。工場のネットワーク分離や応答時間の要件がある場合の選択肢

MES連携から見たERの価値

ERが「何をするか」を決めるといっても、工場では作業内容の多くがすでに決まっています。品番、数量、作業順序は生産計画とMESが持っており、ロボットが勝手に計画すると、実績とトレーサビリティがずれます。

実務では、ERに自由に計画させるのではなく、MESの作業指示をERへの入力として渡し、ERには「指示された作業を、目の前の状況でどう分解して実行するか」を任せる構成が扱いやすくなります。安川電機の発表で示された「部品不足時に生産管理システムへ発注情報を連携」は、逆向きにロボット側の判断を業務システムへ返す例で、MESとの双方向の連携が前提になります。

よくある質問

Gemini RoboticsとGemini(チャット用)の違いは何ですか

Gemini Roboticsは、空間の理解や動作の生成など、ロボットを動かすために学習・調整されたモデル群です。ERは計画と空間推論に特化し、VLAは動作を出力します。

日本の工場でGemini Roboticsを使えますか

ERはAPIでプレビュー提供されています。VLAは研究パートナー・トラステッドテスター向けです。工場の設備として使う場合は、安川電機やファナックなどロボットメーカーの製品として提供される時期と条件を確認するのが現実的です。

ERを使えばティーチングは不要になりますか

安川電機の発表では、指示文で事前ティーチングなしに仕分けができるとしていますが、提供時期は未発表で、特定作業での開発段階です。量産ラインの全工程で教示がなくなるわけではありません。

この記事に出てくる用語

用語集(日・英・中)をすべて見る

この特集について

フィジカルAIは工場に来るのか

ロボット基盤モデルとヒューマノイドの実証。宣伝と量産ラインの距離を測る 全66本

  1. フィジカルAIとは:従来の産業ロボット・協働ロボットとの違いを4つの軸で整理
  2. 美的の「智能体工厂」:荆州工場の14エージェント・38シーンと人形ロボット
  3. ヒューマノイドの工場実証一覧:BMW・Mercedes・Schaeffler・BYDなど10社の現在地
  4. フィジカルAI導入の判断基準:今やるべき工場・待つべき工場を分ける5つの質問
特集の記事をすべて見る →

この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。