4つの提携の全体像

ファナックの2026年のフィジカルAI関連の発表を、相手先ごとに整理します。

相手発表日内容段階
Google Cloud・Google2026年5月13日Gemini EnterpriseのAIエージェントが協働・非協働ロボットを1セルとして操るシステム。全ロボットがIntrinsicのFlowstateに対応予定。Gemini Robotics Trusted Testerに参加発表・対応予定
Google Cloud2026年9月11日AI溶接エージェント。図面から溶接条件とロボット動作を生成2026年12月末出荷予定
NVIDIA2026年5月15日ROBOGUIDEとIsaac Simの常時直接通信、ROBOGUIDEでPhysX利用、CRX双腕のGR00T N模倣学習デモ、Jetson Thor採用発表・デモ
富士通2026年7月16日フィジカルAI分野の事業検討を開始検討開始
日立2026年9月30日日立茨城地区工場を「カスタマーゼロ」にピッキング・段取り替えを検証。2027年度からグローバル展開戦略的パートナーシップ締結

あわせて、ファナックは2025年12月の国際ロボット展(IREX)以降、フィジカルAI関連で1,000台以上のロボットを出荷したとしています(同社発表、2026年5月)。2026年7月24日には、国産マルチモーダル基盤モデルを開発するNoetraへの出資も発表しました(出資額非公表)。

ファナックを中心に、Google Cloudがモデルとエージェント、NVIDIAがシミュレーションと演算、日立が実証の場とエッジAI半導体、富士通が事業検討、Noetraが国産基盤モデルを担う構成図 ファナック既存ロボット+AI Google Cloud・GoogleGemini・溶接エージェント NVIDIAIsaac Sim・GR00T・Jetson 日立自社工場で実証・エッジAI 富士通事業検討 Noetra(出資)国産基盤モデル
ファナックの提携の役割分担。モデル・シミュレーション・実証の場・事業化をそれぞれ別の相手と組んでいる。

戦略の特徴:特定の基盤に依存しない「既存ロボット+AI」

4つの提携から見えるのは、AIモデルや計算基盤を特定の1社に依存せず、複数の基盤を自社ロボットにつなぐ戦略です。Googleとはエージェントとモデル、NVIDIAとはシミュレーションと演算、国内では日立・富士通と実装と事業化、さらに国産モデルのNoetraにも出資しています。

もう1つの特徴は、ヒューマノイドを作るのではなく、既存の産業ロボット・協働ロボットにAIを足す路線です。ファナックはオープンソースのROS 2ドライバーをGitHubで公開しており、Intrinsic Flowstate(ROS互換)への対応も予定しています。外部のAIやソフトウェアからファナックのロボットを扱いやすくする方向です。世界で大量に稼働している既存のロボットを、AIの「体」として位置づけ直す戦略と読めます。

AI溶接エージェント:最初の製品化

4つの中で最も製品に近いのが、2026年9月11日に発表したAI溶接エージェントです。Gemini Enterpriseで部品図面から材料と形状を理解し、溶接条件(電流・電圧)とロボット動作を自動生成します。協働ロボットCRXのタブレット型ティーチペンダントの内蔵カメラで図面を読み取る仕組みで、「ゼロ設定・ゼロ教示」をうたっています。出荷は2026年12月末、サブスクリプションでの提供です。

同社は、図面等のデータは別ユーザーのAI学習に使われないとし、オペレーターは生成された条件・動作をそのまま実行することも微調整することもできるとしています。「ゼロ教示」の実際の範囲と品質保証の考え方は溶接ロボットのAIで詳しく扱います。

日立との提携:自社工場を「カスタマーゼロ」に

2026年9月30日の日立との戦略的パートナーシップは、日立の茨城地区工場を「カスタマーゼロ」(最初の顧客兼実証の場)として、部品のピッキングや品種切替時の段取り替えで、認識精度、動作、タクト、品質を検証するものです。日立のエッジAI半導体とファナックロボットの組合せも検証し、2027年度から半導体、医薬品、高機能材料、自動車、物流、食品の分野へグローバル展開する計画です。

検証項目にタクトと品質が明記されている点は重要です。フィジカルAIのデモは成功の可否で語られがちですが、量産工場で問われるのはサイクルタイムと品質の安定性です。実工場での検証で、この2つの数字がどこまで出るかが、展開の成否を分けると考えられます。

ユーザー側が確認すべきこと

ファナックのロボットを使っている工場にとって、この戦略は既存資産の上にAIを足せる可能性を意味します。一方で、複数の基盤と組んでいるため、どの機能がどの基盤(Google、NVIDIA、国産)に依存するかを把握しておく必要があります。

5点目について、日立との検証のように段取り替えを自律化するなら、品種切替の情報は生産計画とMESから来ます。ロボット単体の自律化ではなく、生産指示と連動した段取り替えとして設計しないと、ラインの効率は上がりません。日本の他社の動向は日本のフィジカルAI勢力図、日立との提携の速報はファナックと日立がフィジカルAIで提携にまとめています。

よくある質問

ファナックはヒューマノイドを作るのですか

本記事で参照した公式発表は、既存の産業ロボット・協働ロボットにAIを組み込む取り組みが中心です。CRXの双腕によるTシャツ畳みのデモはありますが、ヒューマノイドの開発は発表されていません。

AI溶接エージェントは既存のCRXで使えますか

発表ではCRXのタブレット型ティーチペンダントの内蔵カメラで図面を読むとしています。対応する機種・ソフトウェアの版は、出荷時の仕様で確認が必要です。

Intrinsic Flowstate対応で何が変わりますか

ROS互換の開発環境から、ファナックのロボットを扱えるようになる予定です。外部のAIやソフトウェアとの連携がしやすくなる一方、どこまでの機能が対応するかは提供時に確認が必要です。

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この特集について

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。