動作データの受託生成が事業になった

Telexistenceは2025年8月27日、顧客の要件に合わせてロボットの動作データセットを生成するサービスを、同社の「Motion Data Factory」で始めると発表しました。正式開始は2026年1月で、料金は「時間×タスクの複雑さ」で決まる方式です(同社発表)。

これまで動作データは、ロボット基盤モデルを開発する企業が自前で集めるのが普通でした。VLA(視覚・言語・行動)モデルのように、カメラ映像と指示文から動作を出すモデルは、学習に使う動作の量と種類が性能を大きく左右します。データ収集そのものが外部に発注できる工程になったことは、フィジカルAIの供給網に新しい層ができたことを意味します。

同じ流れは他社にも見られます。

主体動き時期・出典
Telexistence顧客要件に合わせた動作データセットの受託生成2025年8月発表、2026年1月正式開始(同社発表)
Telexistence × セブン‐イレブン・ジャパンVLAで動く人型ロボット「Astra」を共同開発。2万店超の店舗網と既存ロボットの稼働データを学習に活用2025年9月発表、2029年の店舗導入が目標
AIロボット協会(AIRoA)Telexistenceやトヨタなどが主導し、データセット整備を支援同上の発表で言及
NVIDIA11時間で78万件の合成軌道(人手デモ約6,500時間相当)を生成。実データと組み合わせて性能40%向上2025年3月、GR00T N1発表時(同社発表)

実データと合成データは役割が違う

動作データの作り方は、人が遠隔操作や実演で集める実データと、シミュレーションで大量に作る合成データに分かれます。NVIDIAの発表は合成データの量的な優位を示していますが、同社自身も「実データと組み合わせて」性能が上がったと述べています。合成データだけで実機の接触や摩擦を再現しきれないためで、この差の埋め方はsim-to-realの4つの課題で扱います。

ロボット動作データの3つの供給経路と基盤モデルへの流れ 受託生成遠隔操作で収集 合成データシミュレーションで大量生成 自社現場の稼働データ実ワーク・実工程 基盤モデルの学習・微調整 自社セルで動くモデル
動作データの供給経路。工場の現場データは、実データの中でも代替しにくい部分にあたる。

製造業にとって重要なのは、3つめの「自社現場の稼働データ」です。自社のワーク・治具・工程条件で集めた動作は、受託でも合成でも作りにくく、モデルを自社のセルに適応させる最後の段階で効きます。言い換えると、ここが製造業側の交渉材料になります。

製造現場の動作データに含まれるもの

ロボットの動作データは、関節角度の時系列だけではありません。実際に記録されるものを並べると、外に出すことの重さが分かります。

  • カメラ映像:ワークの形状、治具、設備のレイアウト、場合によっては作業者が写る
  • 動作の時系列:把持位置、力のかけ方、サイクルタイムなど、工程のノウハウそのもの
  • 指示文・タスク定義:工程名、品番、作業手順
  • 結果ラベル:成功・失敗、不良の発生

映像には未発表の製品や治具が、動作には他社に知られたくない工程条件が含まれます。作業者が写れば個人情報の扱いも発生します。@ITが2026年9月に整理したフィジカルAIの課題でも、データの囲い込みや、他社現場データに含まれる個人情報・営業秘密が論点として挙げられています。

契約で決めておく5つの論点

(2)は特に揉めやすい論点です。ベンダーにとっては多様な現場のデータを汎用モデルに入れたい動機があり、製造業にとっては自社のノウハウが競合のロボットを賢くする懸念があります。ファナックは2026年9月発表のAI溶接エージェントで「図面等のデータは別ユーザーのAI学習に使われない」と明記しており、こうした条項は製品側でも差別化要素になりつつあります。

(5)については、国の基盤モデル開発でも答えが出ていません。RIETIの2026年6月の資料は、国産フィジカルAI基盤モデルが現場データを前提にしている一方、データを出す側へのリターン設計を課題として挙げています。

社内でデータの所有者と利用ルールを決める枠組みは製造データのガバナンスで扱っています。

よくある質問

自社で動作データを集める価値はありますか

あります。汎用のロボット基盤モデルを自社の工程に適応させる段階では、自社のワークと治具で集めた少量の実データが効きます。集めるなら、品番・工程・結果ラベルと紐付けて保存しておくと、後でモデルを替えても再利用できます。

受託生成と合成データはどちらを選ぶべきですか

二者択一ではありません。合成データは量と危険な状況の再現に向き、実データは接触や柔らかい物の扱いなど、シミュレーションで再現しにくい部分を補います。両方を組み合わせるのが現時点の一般的なやり方です。

動作データの提供を求められたら断るべきですか

断る前に、提供範囲と見返りを交渉する余地があります。再利用範囲を自社向けモデルに限る、秘密情報をマスキングする、提供量に応じて利用料を下げるなど、条件次第で双方に利点のある形にできます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。