組立ミスは「論理的な異常」
外観検査で扱う異常は、大きく2種類に分けられます。1つは傷・へこみ・汚れのように、画像の一部の見た目が正常と違う「構造的な異常」です。もう1つは、一つひとつの部品の見た目は正常なのに、あるべき部品がない、数が違う、位置や組合せが違う、という「論理的な異常」です。組立ミスの多くは後者にあたります。
外観検査の研究用データセットMVTec LOCO ADは、この区別を明示的に扱っています。5カテゴリ・3,644枚の画像に、傷やへこみのような構造的異常に加えて、部品の欠落や配置違いといった論理的異常を含めています(MVTec Software)。なお、このデータセットのライセンスはCC BY-NC-SA 4.0で、商用利用はできません。
| 組立ミスの種類 | 例 | 異常の性質 |
|---|---|---|
| 欠品 | ねじ・クリップ・ラベルの付け忘れ | 論理(あるべきものがない) |
| 数量違い | ねじの本数不足、部品の二重取付 | 論理(数が違う) |
| 取付違い | 似た部品の取り違え、向きの逆 | 論理(種類・向きが違う) |
| 位置違い | 取付位置のずれ、隣の穴への取付 | 論理(場所が違う) |
| 配線誤り | コネクタの差し違い、ケーブルの経路違い | 論理(組合せが違う) |
| 部品の損傷 | 組立時の傷・割れ | 構造(見た目が違う) |
良品学習が論理異常で精度を落とす理由
PatchCoreのような良品学習手法は、画像を小さな領域(パッチ)に分け、それぞれが良品のどのパッチに似ているかで異常度を計算します。この仕組みは局所的な見た目の違いには強い一方、「ねじが4本あるべきところに3本しかない」ような全体の構成の違いは苦手です。欠品している場所のパッチは、単に背景や部品の別の部分と同じ見た目になり、異常と判定されないことがあるためです。
数字にも表れています。EfficientADの論文では、MVTec AD・MVTec LOCO・VisAの3データセットで手法を比べており、PatchCoreの平均は91.1でした。MVTec ADだけで見れば99%台の手法が、論理異常を含むデータを加えると大きく下がります。同じ論文でEfficientAD-Mは、LOCOで90.7と報告されています。
LOCOでの約90%という水準は、研究としては進歩でも、組立ミスの流出を防ぐ検査としては見逃しが多すぎます。組立ミス検査では、良品学習だけに頼らない構成が必要です。
物体検出とルール判定を組み合わせる
組立ミスの検査では、「何が、何個、どこに、どの向きで」あるかを明示的に確かめる構成が有効です。
物体検出AIは、画像の中の部品を種類ごとに見つけ、位置を枠で示します。これにより、ねじの本数、部品の有無、取付位置、向き(向きを別クラスとして学習させる)が数値として得られます。その結果を、品番ごとの正解リスト(どの部品が、何個、どの範囲に、どの向きであるべきか)とルールで照合し、合わない項目を不良として出します。傷や割れのような構造的異常は、良品学習のモデルを並行して動かして拾います。
この構成の利点は、不良の内容が具体的にわかることです。「異常あり」ではなく「右上のねじが1本不足」と出せるため、手直しが速く、どの作業でミスが起きやすいかの分析にも使えます。
正解はBOMと作業指示から作る
ルール照合の正解リストは、品番ごとに作る必要があります。品番が少なければ手作業で作れますが、多品種の組立ラインでは、品番ごとの部品構成(BOM)や作業指示書から正解リストを作る仕組みが必要になります。
ここでMESとの連携が効いてきます。検査装置が、今検査しているワークの品番やシリアルをMESから受け取り、その品番の部品構成と作業指示に応じた正解リストを使って照合すれば、品番の切替のたびに人が設定を変える必要がありません。設計変更で部品構成が変わったときも、BOMの改訂に合わせて正解リストが更新されます。部品の取付実績(どのロットの部品を付けたか)をMESで管理している工場なら、検査結果とあわせて記録すると、部品ロット起因の不具合の追跡にも使えます。データの紐付けは外観検査AIの判定結果をMESに戻すで扱っています。
工程内での確認と組み合わせる
組立ミスは、完成後に見つけるより、作業した直後に見つけるほうが手直しのコストが小さくなります。各作業ステーションで撮像し、そのステーションで付けるべき部品を確認する構成にすると、ミスを次の工程に流さずに済みます。ねじ締めであれば、締付け機のトルクと本数の記録を照合する方法も確実です。
画像による検査、締付け機などの設備の記録、作業者の手順確認(作業指示の画面で手順ごとに完了を記録する)を組み合わせると、組立ミスを多層で防げます。作業者の動きを動画で分析する方法は作業動画のAI分析で扱っています。良品学習と不良学習の基本は良品学習と不良学習の違いを参照してください。
よくある質問
物体検出の学習には何枚くらいの画像が必要ですか?
部品の種類ごとに、さまざまな位置・向き・照明の状態を含む画像が必要です。部品自体は正常品でよいため、不良品を集める必要がない点は組立検査の利点です。欠品や取付違いの画像は、正常な組立品から意図的に部品を外して作ることもできます。
配線やケーブルの検査もできますか?
コネクタの有無や差し込み位置は物体検出で確認できます。ケーブルの経路は形が一定しないため難しく、経路上の決まった位置にケーブルがあるかを確認する、クランプの位置を確認する、といった形で検査項目を具体化すると判定しやすくなります。
良品学習は組立検査に使わないほうがよいですか?
欠品や配置違いの検出に良品学習だけを使うのは避けたほうがよいですが、部品の傷や割れ、異物の混入のような構造的な異常には有効です。物体検出とルールで論理的な異常を、良品学習で構造的な異常を、と役割を分けて併用するのが現実的です。
この記事に出てくる用語
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