π0は「VLM+flow matching」で器用な作業を狙ったモデル

Physical Intelligenceは米国のロボット基盤モデル企業で、2024年10月31日にπ0(パイゼロ)を公開しました。同社のブログによると、π0は30億パラメータの事前学習済みVLM(視覚言語モデル)に、flow matchingで動作を出力する部分を加えたモデルです。最大50Hzで動作指令を出し、8種類のロボットのデータで学習しています。論文では、単腕・双腕・移動マニピュレータといった異なる機体のデータを混ぜて学習し、洗濯物畳み、テーブルの片付け、箱の組立といった作業を実行したと報告しています。

flow matchingは、ノイズから目的のデータへ少しずつ近づける生成手法で、画像生成の拡散モデルに近い考え方です。行動を離散的なトークンに区切って出すRT-2型の方式に比べ、関節の滑らかな連続動作を出しやすいのが利点です。洗濯物のように形が変わる柔軟物を扱う作業で、この差が効きます。

π0.5は「未知の環境」への汎化を伸ばした

2025年4月22日に公開されたπ0.5は、π0を基に、学習に含まれない環境でも作業できることを狙ったモデルです。他のロボットのデータ(クロスエンボディメント)と、Webのマルチモーダルデータを一緒に学習しています。

推論は2段構成です。まず「皿を拾う」のようなサブタスクをテキストで出し、次にflow matchingで50ステップ、約1秒分の動作チャンクを生成します。評価では、学習に使っていない家庭環境で食器の片付けやベッドメイクを実行しました。

テスト環境で直接学習したベースラインに近づいた学習環境数
約100
Physical Intelligence π0.5ブログ(2025年4月)
1回に生成する動作チャンクの長さ(約1秒)
50ステップ
同上
π0の学習に使ったロボットの種類
8種類
Physical Intelligence π0ブログ(2024年10月)

注目すべきは、学習に使う環境の数を増やすと、未知の環境での性能が、その環境自体で学習したモデルに近づいたという結果です。データの多様性が汎化に効くことを示しています。

π0.5が画像と指示からテキストのサブタスクを出し、flow matchingで約1秒分の動作チャンクを生成する流れ 画像+指示「台所を片付けて」 高レベル推論サブタスクをテキストで出力 低レベル動作生成flow matchingで50ステップ 誤りが起きる場所1:計画の誤り誤りが起きる場所2:動作の誤り
π0.5の推論の2段構成。先にサブタスクを言葉で決め、その後で動作を生成する。

著者自身が書いている限界

π0.5のブログで著者は、成果を示したうえで、モデルは「完璧には程遠い」と書いています。具体的には、初回で成功しないことがある、高レベルの推論(何をするか)と運動指令(どう動くか)の両方で誤りが多い、という点を明記しています。ベンダーの発表としては珍しく率直な記述で、評価する側もこの記述を前提に読むべきです。

製造業の目線では、限界は次のように言い換えられます。

論点π0・π0.5で示されたこと工場の量産で求められること
成功率未知環境で作業を完遂できる場面がある。初回失敗もある99.9%を超える繰り返しの確実性
速度約1秒分の動作チャンクを逐次生成工程ごとのサイクルタイム(数秒〜数十秒)を常に守る
評価環境家庭環境での片付け・ベッドメイク等決まった品番・治具・公差での作業
失敗時やり直しや人の介入で回復失敗を検知し、品質と安全を保証する仕組み

製造業はπ0系の成果をどう使うか

工場用途で直接π0系を使う段階にはまだありません。一方で、研究から読み取れる設計上の示唆は実務に使えます。

  1. データの多様性が汎化を決める。自社で動作データを集めるなら、同じ条件の繰り返しより、品種・配置・照明の違いを含めた方が効く
  2. 計画と動作を分ける構成は、工場でも有効。「何をするか」をMESや作業指示から与え、「どう動くか」だけをモデルに任せる設計にすると、検証の範囲を絞れる
  3. 失敗を前提にする。リカバリ動作、再試行の上限、人への引き継ぎを最初から工程設計に入れる

2つ目の点は、MESを扱う立場から特に強調しておきたい点です。π0.5は「何をするか」をモデル自身が言葉で決めますが、工場では作業順序や品番は生産計画とMESで決まっています。モデルに自由に計画させるより、MESの作業指示を入力として渡し、動作生成に専念させる方が、トレーサビリティと品質保証の面で扱いやすくなります。この考え方はフィジカルAIに必要な工場データで詳しく扱います。

VLA全体の流れはVLAモデル入門、他社モデルとの比較はロボット基盤モデル5種の比較、ロボット基盤モデル企業の動向はロボット基盤モデル企業の地図を参照してください。

よくある質問

π0は誰でも使えますか

研究成果は論文とブログで公開されています。商用で工場に使う場合のライセンスや提供条件は、利用時点で同社の一次情報を確認する必要があります。

π0.5は製造業のどんな作業に近いですか

片付けや箱の組立のような、物体の位置や形が毎回違うピック&プレース系の作業に近いです。高速・高精度の組立や溶接のような作業とは性格が違います。

flow matchingは何が優れているのですか

連続的な動作を滑らかに生成しやすく、柔軟物の扱いのように細かい動きが要る作業に向きます。一方で生成に計算が要るため、推論速度とのバランスを見る必要があります。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。