結論:即使えるものはなく、比較軸は「提供条件」が先

5つのモデルを比べると、性能より先に提供条件の違いが目立ちます。重みが公開されているもの、APIのプレビューに限られるもの、自社機体の中にしか存在しないもの、論文だけのものが混在しています。製造業の調達では、性能が高くても保守と保証の主体がいなければ量産設備には入れられません。

2026年10月時点で、5つのうち量産の製造現場にそのまま導入できる製品として提供されているものはありません。工場への導入は、ファナックや安川電機といったロボットメーカーが自社製品にモデルを組み込み、製品として保証する形で先行しています。

同じ軸で並べた比較表

以下は各社の公開情報(論文・公式ページ・プレスリリース)に基づく整理です。「不明」は本記事の調査で一次情報を確認できなかった項目です。

項目π0・π0.5Isaac GR00TGemini RoboticsHelixLBM
提供元Physical IntelligenceNVIDIAGoogle DeepMindFigure AIToyota Research Institute
方式VLM+flow matchingVLM(System 2)+拡散(System 1)ER(計画)+VLA+On-DeviceVLADiffusion Policyの拡張
公開形態論文・ブログ重みを公開(1.7はEarly Access)ER 2はAPIプレビュー、VLAはパートナー向け自社機体内。技術詳細の公開は限定的論文
対応機体8種のロボットで学習(π0)GR-1、Unitree G1、AgiBot Genie-1等(N1.6)双腕ロボットに数時間で適応(同社説明)自社ヒューマノイド研究用の双腕系
学習データの特徴他機体データ+Webデータの共学習実データ+人の動画+合成データ不明(Geminiの知識を土台)不明マルチタスク事前学習
商用条件不明開発者ページは本番展開・商用サポート対象外と記載。報道は商用ライセンス可プレビュー・パートナー限定機体と一体不明
工場での採用公開事例なしファナックが双腕の模倣学習デモ安川電機・ファナックが連携を発表BMWでFigure機体を展開公開事例なし
評価結果の公開汎化の結果と限界を明記合成データで性能40%向上(同社発表)公開ページで概要限定的盲検・無作為化試験
5つのロボット基盤モデルを評価結果の公開度と工場への導入経路の明確さの2軸に配置した図 評価結果の公開度(右ほど詳しい) 工場への導入経路 LBM π0系 GR00T GeminiRobotics Helix ロボットメーカー経由 自社機体のみ 研究段階
5モデルの位置づけ。横軸は評価結果の公開度、縦軸は工場への導入経路の明確さ。

この図は公開情報からの当編集部の評価で、性能の優劣を示すものではありません。

比較から見える3つの傾向

1つ目は、工場への導入経路がロボットメーカー経由に集中していることです。Gemini RoboticsとGR00Tは、それぞれ安川電機・ファナック、ファナックが連携を発表しています。製造業のユーザーがモデル提供元と直接契約するより、使い慣れたロボットメーカーの製品の一機能として使う形が主流になりつつあります。

2つ目は、計画と動作の分離です。GR00TのSystem 2/1、Gemini RoboticsのERとVLA、π0.5のサブタスク生成と動作チャンクのように、どのモデルも「何をするか」と「どう動くか」を分けています。工場ではこの分離が実装しやすさに直結します。「何をするか」をMESの作業指示から与え、「どう動くか」だけをモデルに任せる構成が取れるためです。

3つ目は、データ戦略の違いです。NVIDIAは合成データ、Physical Intelligenceは他機体とWebのデータ、TRIはマルチタスクのデモデータを重視しています。自社で動作データを集めるときに、どのモデルの方式に近いデータを作るかで、後から使えるモデルが変わります。

製造業の選定で見るべき5項目

5つ目は見落とされやすい項目です。ファナックのAI溶接エージェントは、図面等のデータを別ユーザーのAI学習に使わないと明記しています(同社発表、2026年9月)。どのモデルを採用するにしても、同様の取り決めを契約で確認しておくべきです。データの権利についてはロボット学習データは誰が作るかで扱います。

各モデルの詳細は、π0・π0.5、GR00T、Gemini Robotics、Figure Helixの各記事を参照してください。

よくある質問

自社で使うならどのモデルが良いですか

現時点では、モデルを直接選ぶより、使っているロボットメーカーがどのモデルと連携しているかを確認する方が現実的です。研究開発目的なら、重みが公開されているGR00Tが試しやすい選択肢です。

CovariantやSkild AIは比較に入らないのですか

CovariantはピッキングのRFM-1を開発しましたが、2024年8月にAmazonと非独占ライセンス契約を結び創業者らが移籍しました。Skild AIは汎用ロボット脳を開発しています。本記事では公開情報の多い5種に絞りました。

基盤モデルの更新が速い場合、どう追従すればよいですか

量産設備では、モデルの版を固定し、更新は変更管理の手続きを経て行います。版ごとに評価結果を残し、品質記録と紐付けておくと、問題発生時に原因を追えます。

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この記事を書いた人

株式会社サオス

株式会社サオス 製造DX部

DELMIA Apriso を中核とした MES / 製造DX の導入・運用・人材育成と、製造業向けAIの調査・開発・教育を手がけるITコンサルティング企業。ISO 9001:2015 / ISO 27001:2022 認証取得。 日本・中国・米国で製造業のMES・データ基盤・AI導入を手がけた実務者が、欧米・中国の一次情報にあたって書いています。